麦
【鑑 賞】 麦の穂に立つ風ありて暮れそめぬ
明治後期から昭和末期にかけての俳人・及川貞(おいかわてい)の俳句作品。
麦の穂が風で揺れている情景が目に浮かんでくる句。
以下、季語「麦」の解説です。
【表 記】
(漢字) 麦
(ひらがな) むぎ
(ローマ字) mugi
【季 節】
夏
【分 類】
植物
【意味・説明】
麦に関する季語は、「穂麦」「麦畑」「麦野」「大麦」「小麦」「麦の雨」など、数多くのものがあります。
【俳句例】
※ 有名俳人の俳句を中心に集めました。
あまぐものまたたゆたひて麦の穂や
(久保田万太郎)
いざともに穂麦喰はん草枕
(松尾芭蕉)
うは風に音なき麦を枕もと
(与謝蕪村)
熟れ際に倒れし麦の熟れにけり
(永田耕衣)
熟れ麦のにほふ夕べを雨来らし
(及川貞)
ぐるぐると廻る夕日や麦熟るる
(永田耕衣)
小作より地主わびしと麦熟る
(竹下しづの女)
子を抱きて麦のとがれる畦のみち
(山口誓子)
人血のあふれては乾く千里の麦
(日野草城)
するが野や大きな富士が麦の上
(臼田亜浪)
背低く麦かつぎをる孀かな
(高浜虚子)
そくばくの麦の黄もあり多摩河原
(松本たかし)
そよ風の麦の夜道となりにけり
(及川貞)
旅芝居穂麦がもとの鏡たて
(与謝蕪村)
たまごいろの穂麦をにぎりねむくゐる
(川島彷徨子)
提灯に穂麦照らされ道左右
(西山泊雲)
手に拾ひ金色はしる麦一と穂
(橋本多佳子)
手をば刺す穂麦の中を来りけり
(松本たかし)
ともかくも麦はうれてゐる地平
(種田山頭火)
野に出れば麦は穂に出てゐたりけり
(鈴木花蓑)
白昼の畝閒くらみて穂だつ麥
(飯田蛇笏)
鳩啼いてひとり旅なる山の麦
(臼田亜浪)
ふく風の雨氣にまけし穂麦かな
(久保田万太郎)
郭公まねくか麦のむら尾花
(松尾芭蕉)
麦暑し穂に刺されつつめくるめく
(西東三鬼)
麦熟るる島の碑の文字すべて悲話
(中村汀女)
麥熟れて夕真白き障子かな
(中村汀女)
麦黄なり屋に竜骨の聳え立ち
(山口誓子)
麦暮れぬ流弾笛をふいて飛ぶ
(日野草城)
麦照るや弾が掠めし耳いたき
(相馬遷子)
麦の道牛飼人もいくさ経て
(石田波郷)
麦の穂にかるがるとまる雀かな
(飯田蛇笏)
麦の穂によせて哀しきおもひかな
(久保田万太郎)
麦の穂にわが少年の耳赤し
(原石鼎)
麦の穂の陰も明るし布良の道
(石田波郷)
麦の穂のそろふ景色の文机
(富安風生)
麦の穂の出揃ふ頃のすがすがし
(高浜虚子)
麦の穂の筆を染るや御門外
(椎本才麿)
麦の穂のゆるる影濃き灯しどき
(角川源義)
麦の穂はのびて文福茶釜道
(富安風生)
麦の穂を便につかむ別かな
(松尾芭蕉)
麦は黄に胎児こぼれんばかりなり
(野見山朱鳥)
麦は穂にくもれど光り失はず
(大野林火)
麦穂だつ陽は鉄塔に灼けそめぬ
(西島麦南)
痩せ麦に不在地主の吾が来彳つ
(竹下しづの女)
山の月雨なき麦を照らしけり
(臼田亜浪)
夕日さすわが胸もとへ麦伸びし
(大野林火)
ゆきすがる片戸の隙も麦の金
(橋本多佳子)
行駒の麦に慰むやどり哉
(松尾芭蕉)
若者の頭が走る麦熟れゆく
(西東三鬼)
【和歌・短歌に詠まれた「麦」】
山がつの
はてに刈りほす麦の穂の
くだけて物を思ふころかな
(曽禰好忠)
安房の國や
長き外浦の山なみに
黄ばめるものは麥にしあるらし
(若山牧水)
一面の
穂麦畠にあかあかと
風波わたる見れど飽かなく
(土田耕平)
おぼつかなき
雨のあがりに夕方の
麦の黄ばみはうすほのめけり
(島木赤彦)
黄なる麦
一穂ぬきとり手にもちて
雲なきもとの高原をゆく
(若山牧水)
【関連季語・子季語】
麦畑 麦野 穂麦
大麦 小麦 麦の雨
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