遅 日
【鑑 賞】 松かぜも雀のこゑも遅日かな
大正末期から平成初期にかけての俳人・百合山羽公(ゆりやまうこう)の俳句作品。
春の長閑な光景が目に浮かんでくる句。
以下、季語「遅日」の解説です。
【表 記】
(漢字) 遅日
(ひらがな) ちじつ
(ローマ字) chijitsu
【季 節】
春
【分 類】
時候
【意味・説明】
遅日とは、夕方の気配がいつまでも長く続いて、なかなか日が暮れないことを表現する言葉です。
【俳句例】
※ 有名俳人の俳句を中心に集めました。
一本の遅日の燐寸燃ゆるひま
(中村汀女)
浮玉がうねりにのりて海遅日
(福田蓼汀)
海の船遅日の河を遡る
(日野草城)
押売りに押し切られたる遅日かな
(鈴木真砂女)
おろし金の目立たのみし遅日かな
(鈴木真砂女)
温室のまはり遅日の子等あそぶ
(長谷川かな女)
外国に父母は住む娘に遅日
(高木晴子)
影うしなふ遅日のうしろ火を焚けり
(柴田白葉女)
葛飾の遅日とろとろ馬鹿囃子
(文挟夫佐恵)
カッパ淵遅日の祠一つ置き
(高澤良一)
かもめ飛ぶ観潮の帆の遅日かな
(飯田蛇笏)
厠出て葉蘭をぬらす遅日かな
(日野草城)
ぎっくり腰遅日の電話鳴らせおく
(高澤良一)
木の肌を撫して何なき遅日かな
(石川桂郎)
虚子百句遅日に偲びまゐらする
(阿部みどり女)
銀閣の遅日砂山こぼれけり
(萩原麦草)
軽雷のあとの遅日をもてあます
(水原秋桜子)
公圏に赤松多き遅日かな
(高田風人子)
黒板の遅日の文字の消し残し
(中村汀女)
この庭の遅日の石のいつまでも
(高浜虚子)
三条の橋にもどりて暮遅き
(五十嵐播水)
三度炊きて遅日まだある大寺哉
(前田普羅)
山門に鳶下りている遅日かな
(橋閒石)
支那寺の赤を遅日の赤としぬ
(後藤比奈夫)
寂寞と遅日の崖が砂こぼす
(岡本眸)
手術まつ遅日の玻璃戸灯りぬ
(石原舟月)
主婦逝きて遅日の三和土物置かず
(岡本眸)
沈丁の花も過ぎたる遅日かな
(五十崎古郷)
潜望鏡に遅日の船の動かざり
(臼田亜浪)
タイル這ふ蟻に遅日の手をすゝぐ
(金尾梅の門)
たか~と塩屋の橋の遅日かな
(吉岡禅寺洞)
遅日暮れ海坂四方にそゝり立つ
(相馬遷子)
机ならべて本新らしき遅日かな
(大谷碧雲居)
妻留守の遅日やたはし乾きをり
(能村登四郎)
寺遅日日向はなべて花了へし
(岡本眸)
峠うかべ遅日の村の昔より
(村越化石)
どうだんの花がこぼるる石遅日
(山口青邨)
時計ゆらりと止まり遅日の波ひびく
(鷲谷七菜子)
土佐犬は遅日のまぶたふせしまゝ
(高木晴子)
ながしめす駱駝に旅の遅日光
(飯田蛇笏)
泣くやうに火の玉しづむ遅日かな
(仙田洋子)
成りたての丸太棒の遅日かな
(池田澄子)
縄とびの端もたさるる遅日かな
(橋閒石)
人形の笑ふ仕草や泣く遅日
(長谷川かな女)
ぬかるみが柩車あやつる遅日かな
(秋元不死男)
練稚児の冠かたむく遅日かな
(長谷川かな女)
野の遅日声を揃へて杭を打つ
(阿部みどり女)
海苔巻のすこし乾ける遅日かな
(高澤良一)
剥製に囲まれいたり遅日の父
(橋閒石)
肥後橋に筑前橋に遅日哉
(松瀬青々)
膝を詰め遅日の遠野物語
(高澤良一)
ひと雨に灯ひそけき遅日かな
(角川源義)
人気なき嵯峨藪道の遅日かな
(西山泊雲)
ひとすぢに山坂垂りて遅日かな
(日野草城)
ひとの家にゆあみし匂ふ児の遅日
(林翔)
冷やかに牡丹蕾み居る遅日かな
(渡辺水巴)
父祖の陶土沈めて瀬戸の水遅日
(文挟夫佐恵)
風呂敷の水色をとく遅日かな
(井上雪)
法話より詩話の遅日や把栗寺
(河東碧梧桐)
ミサのあと遅日の火山くゆり立つ
(堀口星眠)
水に沿ひゆきて遅日の歩をのばす
(上田五千石)
弥陀如来尨然と遅日照りたまふ
(渡邊水巴)
みな廻るあはれは遊園地の遅日
(石原八束)
向き合うて平たき顔の遅日かな
(橋閒石)
孟宗の太さ遅日をさへぎりぬ
(阿波野青畝)
戻り路に塔の相寄る遅日かな
(日野草城)
ものの喩への喉にまで遅日かな
(石川桂郎)
横山へ遅日の景の暮れぬ間に
(稲畑汀子)
両の手をもて余しゐる遅日かな
(柿本多映)
レタス沢山洗い遅日の手がきれい
(池田澄子)
【関連季語・子季語】
遅き日 暮遅し
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