椿
【鑑 賞】咲くよりも落つる椿となりにけり
大正時代から昭和後期にかけての俳人・水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)の作品。
花の盛りを過ぎて、花が落ち始めた頃の光景が目に浮かんでくる句。
以下、季語「椿」の解説です。
【表 記】
(漢字) 椿
(ひらがな) つばき
(ローマ字) tsubaki
【季 節】
春
【分 類】
植物
【意味・説明】
椿と山茶花はよく似ていますが、椿の花は冬から春にかけて咲き、山茶花は晩秋から初冬にかけて咲きます。
Tsubaki(camellia) and sazanka(sasanqua) are very similar, but tsubaki blooms from winter to spring, and sazanka blooms from late autumn to early winter.
【俳句例】
※ 有名俳人の俳句を中心に集めました。
赤い椿白い椿と落ちにけり
(河東碧梧桐)
暁の釣瓶にあがるつばきかな
(山本荷兮)
あふぎみて椿の花に見おろさる
(日野草城)
いかな事椿落たり谷の底
(服部土芳)
活けて見る光琳の画の椿哉
(夏目漱石)
いちじるく岨根の椿咲きそめぬ
(飯田蛇笏)
一花揺れ二花揺れ椿みんな揺れ
(星野立子)
いま一つ椿落ちなば立去らん
(松本たかし)
鶯の笠おとしたる椿かな
(松尾芭蕉)
牛の子の皃をつん出す椿哉
(小林一茶)
うつし世に浄土の椿咲くすがた
(水原秋桜子)
大空に彫れし丘のつばきかな
(飯田蛇笏)
大椿なりをしづめて花ざかり
(日野草城)
落したか落ちたか路の椿かな
(正岡子規)
落ちさまに虻を伏せたる椿哉
(夏目漱石)
折りとりし椿それにも陽炎へる
(原石鼎)
笠へぽつとり椿だつた
(種田山頭火)
風の中に日の色すわる椿かな
(川端茅舎)
昨日今日落ちかさなりし椿かな
(高橋淡路女)
この後の古墳の月日椿かな
(高浜虚子)
子を連れてしばらく拾ふ椿かな
(吉武月二郎)
咲き満ちてほのかに幽し夕椿
(日野草城)
白玉や蕊のなよびもおそ椿
(原石鼎)
千仭を落つ時長し椿かな
(西山泊雲)
父が墓百里へだつる椿かな
(阿部みどり女)
蝶鳥に八重褪せそめし椿かな
(原石鼎)
椿落ちず神代に還る心なし
(杉田久女)
椿落つる我が死ぬ家の暗さかな
(前田普羅)
椿落て昨日の雨をこぼしけり
(与謝蕪村)
椿折る人の手見ゆる夕かな
(前田普羅)
椿濃し神代の春の御姿
(杉田久女)
椿咲く島へ三里や浪高し
(尾崎放哉)
椿手にものを茹でゐる地獄かな
(皆吉爽雨)
椿道綺麗に昼もくらきかな
(川端茅舎)
流れゆく椿を風の押しとどむ
(松本たかし)
波のくる砂に椿のさしてあり
(山口青邨)
ぬかるみ赤いのは落ちてゐる椿
(種田山頭火)
八方の枝に花咲く椿かな
(山口波津女)
葉にそむく椿や花のよそ心
(松尾芭蕉)
晴れ曇る晴れ日当れる椿かな
(鈴木花蓑)
春風にむかふ椿のしめり哉
(志太野坡)
早咲きの椿椿と口揃え
(高澤良一)
ひよろ長き梢のさきの椿かな
(原石鼎)
枇杷の葉に椿まぎれず咲きしかな
(長谷川かな女)
水いれて鉢にうけたる椿かな
(上島鬼貫)
水底に重なりあへる椿かな
(原石鼎)
めぐり見てさきがけ椿二つかな
(皆吉爽雨)
弥次馬のやうに転がる椿見て
(高澤良一)
山かけて垣結ふ寺の椿かな
(原石鼎)
ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に
(高浜虚子)
【和歌・短歌に詠まれた「椿」】
いくたびか
わが君が世にあらむため
ひかげのどけき玉椿かな
(藤原定家)
奥山の
八つ峰の椿つばらかに
今日は暮らさねますらをの伴
(大伴家持)
鏡山
みがきそへたる玉椿
かげもくもらぬ春の空かな
(藤原定家)
あさましく
雨のやうにも花おちぬ
わがつまづきし一もと椿
(与謝野晶子)
鶯は
いまだ来啼かずわが背戸辺
椿茂りて花咲き籠る
(若山牧水)
伯母が寺
愛宕のふもと鳴滝に
椿ひろひてあらむ世なりし
(与謝野晶子)
さやさやし
庭樫が枝の朝の風
ここが露けく椿散りゐる
(中村憲吉)
象の肌の
けうとさおもふ椿の木
枝さき重き花のかたまり
(木下利玄)
十ばかり
椿の花をつらぬきし
竹の小枝をもちて遊びつ
(正岡子規)
山ばとの
雨よぶ声にさそはれて
庭に折々散る椿かな
(樋口一葉)
【関連季語・子季語】
紅椿 白椿 山椿 藪椿
落椿 八重椿
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