行く年
【鑑 賞】ゆく年やしめきりてきく風の音
大正初期から昭和中期にかけての小説家・俳人である久保田万太郎(くぼたまんたろう)の作品。
冬の寂しい情景が目に浮かんでくる句が感じられる句。
以下、季語「行く年」の解説です。
【表 記】
(漢字) 行く年
(ひらがな) ゆくとし
(ローマ字) yukutoshi
【季 節】
冬
【分 類】
時候
【意味・説明】
「行く年」は、年が過ぎ去って行く感じを擬人的に表現した季語です。
“Yukutoshi” is a seasonal word that anthropomorphically expresses the feeling of the year passing by.
【俳句例】
※ 有名俳人の俳句を中心に集めました。
円山を出て行く年の巷かな
(野村泊月)
行く年に畳の跡や尻の形
(向井去来)
ゆく年の、入日、水仙ばたけかな
(久保田万太郎)
ゆく年の海よくみゆる部屋にあり
(久保田万太郎)
ゆく年の木の根へだたる流れかな
(飯田龍太)
ゆく年の娼婦雑沓にまぎれぬる
(岸風三楼)
ゆく年の瀬田を廻るや金飛脚
(与謝蕪村)
行く年の空に埋まる壊れ山
(平井照敏)
行く年の月ひるのごとてりにけり
(原石鼎)
行く年の恥らひもなし干し襁褓
(鈴木花蓑)
行く年の人鈍にして子を得たり
(正岡子規)
ゆく年の水ひびきゐる猿茸
(飯田龍太)
ゆく年の雪に手燭の油煙たつ
(飯田蛇笏)
ゆく年や伊吹をかざす雲一つ
(金尾梅の門)
ゆく年やいんろうむしの柿の渋
(久保田万太郎)
行く年やかけながしたる芭蕉像
(飯田蛇笏)
ゆく年や風にあらがふ日のひかり
(久保田万太郎)
行く年や壁に恥ぢたる覚書
(榎本其角)
ゆく年や草の底ゆく水の音
(久保田万太郎)
行く年や句を乞はれたる世に疎く
(河野南畦)
ゆく年や坂一つなき中央区
(鈴木真砂女)
ゆく年や鯛も鮪も符丁買ひ
(鈴木真砂女)
行く年や焚火に蹴こむ松ぼくり
(石塚友二)
行く年や尖りて若き芦青し
(渡辺水巴)
ゆく年やとても難波の橋の数
(松岡青蘿)
ゆく年や鳶のきてゐる厨口
(金尾梅の門)
行く年や何果したることなくに
(石塚友二)
ゆく年やふるさと印す魚樽
(鈴木真砂女)
行く年やメロン高貴の薄みどり
(渡辺水巴)
行く年やわれにもひとり女弟子
(富田木歩)
【関連季語・子季語】
年行く 年歩む 去ぬる年
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