夕焼け
【鑑 賞】夕焼のあへなく消えし案山子かな
大正初期から昭和中期にかけての小説家・俳人である久保田万太郎(くぼたまんたろう)の作品。
夕焼けが沈んで案山子だけが残された田畑の光景が目に浮かんでくる句。
以下、季語「夕焼け」の解説です。
【表 記】
(漢字) 夕焼け
(ひらがな) ゆうやけ、ゆやけ
(ローマ字) yuyake
【季 節】
夏
【分 類】
天文
【意味・説明】
単に「夕焼け」とした場合は夏の季語となります。
他の季節で使う場合は、それぞれ「春の夕焼」「秋の夕焼」「冬の夕焼」とします。
If you simply use “yuyake”, it will be a summer season word.
For other seasons, they should be used “harunoyuyake”, “akinoyuyake”, and “fuyunoyuyake”.
【俳句例】
※ 有名俳人の俳句を中心に集めました。
梧桐のはや夕焼を隠し得ず
(三橋鷹女)
赤と青闘つてゐる夕焼かな
(波多野爽波)
あらたまの夕焼小焼つつ抜けに
(角川照子)
蟻の列いま粛然と夕焼けぬ
(川端茅舎)
いくたびも山彦かへす夕焼かな
(吉武月二郎)
いま褪せし夕焼の門の虫しぐれ
(水原秋桜子)
岩桔梗紫消えてなほ夕焼
(福田蓼汀)
海猫の翔つ夕焼の断崖白し
(石原八束)
書き騙るあはれ夕焼野に腹這ひ
(三橋鷹女)
かはせみの巣ありと思ふ夕焼川
(松村蒼石)
行水に天の夕焼したたれり
(相馬遷子)
今日のわざ今日終へんとし夕焼濃し
(中村汀女)
金箔の夕焼の空すぐ琵せぬ
(阿波野青畝)
鶏頭のうつれる水も夕焼て
(岸風三楼)
こむらのみ凛々しく夕焼野良帰り
(香西照雄)
下雲を透き夕焼けし雲うかぶ
(篠原梵)
空のやや夕焼めきて雪が降る
(京極杞陽)
戦は夕焼くる野に泣きて終ふ
(上村占魚)
種蒔けば天をかぎりの夕焼ぞ
(大野林火)
旅人のうしろ照らるる夕焼かな
(吉武月二郎)
ちぎれ雲夕焼けさめて夕長し
(富安風生)
地に悩みあり夕焼はうつくしく
(岸風三楼)
重陽の夕焼に逢ふ幾たりか
(阿部みどり女)
妻祷る真黄色なる夕焼に
(中村草田男)
妻が呼ぶ声夕焼の中につよし
(右城暮石)
罪の不安夕焼けの影みな森と
(加藤楸邨)
遠き日のことのごとしや夕焼けて
(加藤楸邨)
鳥翔ける夕焼きよき彼方へと
(相馬遷子)
虹消えて夕焼けしたる蔬菜籠
(飯田蛇笏)
箱庭や街の夕焼みじかゝり
(石田波郷)
一人出て粟刈る里や夕焼す
(夏目漱石)
向日葵に天よりも地の夕焼くる
(山口誓子)
昼風呂に小野子の片頬夕焼けて
(前田普羅)
富士の前夕焼及ばぬところにゐて
(岸田稚魚)
干梅の皺たのもしく夕焼くる
(竹下しづの女)
満潮の波をたゝまず夕焼す
(鈴木真砂女)
水鳥のてらし出されぬ夕焼波
(吉武月二郎)
みすずかる信濃の夕焼青葡萄
(福田蓼汀)
むさしのの夕焼を描く父と祖父
(皆吉司)
名月のいづる夕焼ひろごりぬ
(渡邊水巴)
物として我を夕焼染めにけり
(永田耕衣)
夕焼くる掛稲露をおびにけり
(西島麦南)
夕焼くるかの雲のもと人待たむ
(橋本多佳子)
夕焼けて雲くづれゆく茂かな
(富田木歩)
夕焼けて砂町に棲むほかはなし
(石田波郷)
夕焼けてつひにホプラの風をよばず
(久保田万太郎)
夕焼けて夏山己が場に聳ゆ
(飯田龍太)
夕焼けて何もあはれや船料理
(中村汀女)
夕焼けて西の十萬億土透く
(山口誓子)
夕焼けて火花の如く飛ぶ蝗
(鈴木花蓑)
夕焼て富士あり凧の絲たるみ
(岸風三楼)
夕焼のいつかをさまり星二つ
(高濱年尾)
夕焼けの色を残して海静か
(稲畑汀子)
夕焼のかそかなりしか雪の原
(相馬遷子)
夕焼のくまどつてをる潦
(京極杞陽)
夕焼の雲の中にも仏陀あり
(高浜虚子)
夕焼の仔馬映せり天の野に
(長谷川かな女)
夕焼のはかなきことも美しく
(稲畑汀子)
夕焼の盥のたがの撥ねてをり
(野村喜舟)
夕焼の橋に遊んで螢待つ
(鈴木花蓑)
夕焼がきれいと炭ひく腰のばす
(菖蒲あや)
夕焼に父の帆なほも沖にあり
(寺山修司)
夕焼は映らず白きゆきのした
(渡辺水巴)
夕焼も海の匂も消えしとき
(久保田万太郎)
夕焼や鰯の網に人だかり
(正岡子規)
夕焼や梅も桜も固けれど
(中村汀女)
夕焼や杉の梢の凌霄花
(村上鬼城)
夕焼や運び行く鍋煮ゆる音
(香西照雄)
夕焼や忘れてをれば蟻の列
(加藤秋邨)
夕焼を見つくしてまた螢まつ
(百合山羽公)
【関連季語・子季語】
夕焼雲 大夕焼 夕映
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