冬の月
【鑑 賞】 冬の月淋しがられて冴えにけり
明治中期の俳人・藤野古白(ふじのこはく)の俳句作品。
冬の寒々として寂しい雰囲気が伝わってくる句。
この句の趣向と似たものが感じられる俳句作品は、日野草城(ひのそうじょう)の次の句。
冬の月寂莫として高きかな
「月の冴え」や「月冴ゆる」が詠み込まれた俳句としては、次のような作品があります。
寒月やいよいよ冴えて風の声
(永井荷風)
寒梅や痛きばかりに月冴えて
(日野草城)
曽根崎やむかしの路地に月冴えて
(鷲谷七菜子)
中天に月冴えんとしてかゝる雲
(高浜虚子)
月冴ゆるばかりに出でて仰ぎけり
(高浜年尾)
柊家の忍返しに月冴え来
(京極杞陽)
山の月冴えて落葉の匂かな
(芥川龍之介)
夜半の月冴えず明るし春近き
(及川貞)
以下、季語「冬の月」の解説です。
【表 記】
(漢字) 冬の月
(ひらがな) ふゆのつき
(ローマ字) fuyunotsuki
【季 節】
冬
【分 類】
天文
【意味・説明】
単に「月」とした場合は秋の季語となり、他の季節であれば「春の月」「夏の月」「冬の月」とします。
「冬の月」という季語からは、「白い、明るい、氷のような見た目」といったようなイメージが感じられます。
【俳句例】
※ 有名俳人の俳句を中心に集めました。
浅からぬ鍛冶が寐覚や冬の月
(加舎白雄)
あら猫のかけ出す軒や冬の月
(内藤丈草)
池氷る山陰白し冬の月
(藤野古白)
いつも見るものとは違ふ冬の月
(上島鬼貫)
うきて行く雲の寒さや冬の月
(斯波園女)
うしろからひそかに出たり冬の月
(正岡子規)
うす~とけぶる梢や冬の月
(渡辺水巴)
縁日や人散りかかる冬の月
(寺田寅彦)
寒知らぬ島かも冬の月にいづる
(及川貞)
木の影や我影動く冬の月
(正岡子規)
この木戸や鎖のさゝれて冬の月
(榎本其角)
しづかなる柿の木はらや冬の月
(黒柳召波)
知らぬ犬と道明るさや冬の月
(大谷碧雲居)
しめ直す奥の草鞋や冬の月
(広瀬惟然)
砂みちのすこし上りや冬の月
(久保田万太郎)
大工帰り佐官働き冬の月
(永井龍男)
町内に湯屋が健在冬の月
(高澤良一)
次に見し時は天心冬の月
(稲畑汀子)
出迎ふる人亡くて門の冬の月
(寺田寅彦)
ともどもに別るゝ心冬の月
(稲畑汀子)
亡き魂も出迎へよ門の冬の月
(寺田寅彦)
泣くもあり泣かねば冬の月を見る
(石原八束)
びらびらはなき道筋や冬の月
(広瀬惟然)
笛の音のいつからやみて冬の月
(横井也有)
仏間はまた熟寝の間にて冬の月
(鷲谷七菜子)
冬の月いざよふこともなく上る
(高浜年尾)
冬の月おどろとなりし糸芒
(阿部みどり女)
冬の月かこみ輝き星数多
(高木晴子)
冬の月高くなりつつ靄離れぬ
(篠原梵)
冬の月提灯つりて道具市
(松瀬青々)
冬の月母と子の距離凍てついて
(河野静雲)
冬の月ひそかにかかぐ時計台
(柴田白葉女)
冬の月より放たれし星一つ
(星野立子)
冬の月をみなの髪の匂ひかな
(野村喜舟)
塀添ひに風流れをり冬の月
(臼田亞浪)
星屑消して無碍なり崖の冬の月
(及川貞)
松ばやしぬけねばならず冬の月
(久保田万太郎)
松原や闇の上行く冬の月
(藤野古白)
松よりも杉に影ある冬の月
(井上井月)
嶺の松や後夜後ト前キの冬の月
(尾崎迷堂)
むさし野は堂より出る冬の月
(上島鬼貫)
百品(ももしな)の旅の仕舞ひや冬の月
(斯波園女)
屋根の上に火事見る人や冬の月
(正岡子規)
雪よりも寒し白髪に冬の月
(内藤丈草)
ランプ灯く「忘れ唱歌」に冬の月
(長谷川かな女)
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